今回は、自然界の仕組みを模倣した建築、バイオミミクリー(生物模倣)建築についてです。
バイオミミクリーとは何か、そしてバイオミミクリー建築の代表例としてアフリカ・ジンバブエの「 Eastgate Center(イーストゲート・センター)」を紹介していきます。

 

バイオミミクリー(生物模倣) とは何か

バイオミミクリーやバイオミメティクスと言う言葉を聞いたことがありますか?
これらの言葉は日本語で「生物模倣」「生物模倣技術」と訳すことができ、生物の体型・色・機能・行動など様々 な要素を模倣し技術開発に活かそうとする科学技術のことです。

生物模倣の歴史は古く、有名な事例としてはレオナルド・ダヴィンチ(1452–1519)がコウモリの翼を模倣した空飛ぶ機械を設計していたこと(当時はアイディアのみで実用化はできなかった)、またライト兄弟が、1903年にハトからインスピレーションを得た「飛行機」の飛行に成功したことなどが挙げられます。

また最近では、蚊の針を参考に作った「痛くない注射針」なども有名です。

 

バイオミミクリー(生物模倣) 建築

 以上で見てきた生物模倣技術ですが建築業界では、「バイオミミクリー」の言葉を使うことが多く、生物模倣を取り入れた建築のことをバイオミミク リー建築と称します。

生物は、進化の過程で絶えず変化する環境に適応してきました。最近では持続可能性の観点から、生物模倣の哲学が注目されており、エネルギー効率の改良などの面でも期待が高まっています。

 

バイオミミクリー(生物模倣)実例: 建築 Eastgate Center(イーストゲート・センター)

概要

バイオミミクリー建築の代表格のひとつが、アフリカ大陸ジンバブエの首都ハラーレに建つショッピングモール「 Eastgate Center(イーストゲート・センター)」です。
設計は地元出身の建築家:Mick Pearce(ミック・ピアース)で1996年に完成しました。 



【写真と参考】
Watch how the Eastgate Center in Zimbabwe Cools Itself Without Air Conditioning
https://livinspaces.net/ls-tv/watch-how-the-eastgate-center-in-zimbabwe-cools-itself-without-air-conditioning/


こちらの建物は、どのような生き物を模倣したか分かりますか?

正解は、シロアリです。シロアリのあり塚です。

日本の住宅の天敵とされる白アリですが、その巣穴の構造を建築に取り入れたというのは実に面白いところです。
ただし一点留意しておきたいのは、今回取り上げられているシロアリはシロアリ科に分類されるシロアリであり、日本で多く見られるミゾガシラシロアリ科のヤマトシロアリやイエシロアリとは別の種類であるという点です。

 

ジンバブエ・ハラーレの気候について

ここで簡単にですが、ジンバブエのハラーレの気候についてご紹介します。

ハラーレはアフリカ大陸南東部に位置します。標高1400m以上の高原地帯にあり、雨季は最高気温27度、乾季は最高気温21度程度と年較差の小さい地域です。夜は5度など1桁台まで冷え込みます。農作物はタバコやトウモロコシ、綿花や柑橘類が採れ、ジンバブエの金融・商業の中心地として栄えている地域です。

 

シロアリの生態とあり塚のしくみ

熱帯地域に生息するシロアリは、あり塚(巣) の中でキノコを栽培し、そのキノコを食べて生活しています。
あり塚は大きく、地上に作られ、縦長で岩のような形をしています。

あり塚の中ではキノコの分解やシロアリの食事により二酸化炭素や水素が発生するため、換気が必要です。シロアリも人と同様に快適に暮らすためは、適切な温度と湿度の管理が必要なのです。
しかし外は高温で強い日差しがあるため、快適な温度と湿度を維持するためには、日差しも熱も取り込むわけにはいきません。
ではどうするのでしょうか。

答えはあり塚の素材にあります。

シロアリはあり塚を土で作りますが、土の遮熱効果で外壁側と内部で温度差が発生し、熱移動(つまり空気の移動) が発生します。この空気循環に伴って、あり塚に無数に開けた通路や小さな穴から二酸化炭素や水素などを排出します。

さらにシロアリたちは風向きや環境変化に応じて、通気口を開けたり綴じたりすることで、あり塚内の空気の流れをコントロールできるそうです。

 

Eastgate Center(イーストゲート・センター)の「あり塚模倣構造」

これまでの話の通り、Eastgate Center(イーストゲート・センター)はシロアリのあり塚の構造を模倣しています。

吹き抜けから暖かい空気を排出し、そうして生まれた空気の流れ「煙突効果」により下層階から冷えた重たい空気を建物内に循環させます。日中は外壁で太陽熱を吸収し、冷え込む夜間にはファンを用いて暖かい空気を内部へ送り込みます。

こうした換気システムを導入することで、冷房コストは従来の10%で済み、建物全体の省エネ効果も同じ町の同規模建物と比較して35%削減されているようです。

 

まとめ

今回紹介したアリ塚の例はアクロバティックな事例でした。
建築業界で実用的なバイオミミクリー建築を挙げると、蜂の巣をまねたハニカム構造や、ハスの葉っぱの表面構造を参考にした超撥水のコンクリート型 枠の「アート型枠」などがあります。

以上のような例から、普段見落としてしまうような一見ごく当たり前の自然現象の中に設計のヒントがあるかもしれないと考えさせられます。
今後も広い視野を持って設計と建築に向き合って行きたいものです。