先日、あるテレビ番組で【泊まれる文化財】という特集を見かけました。
インバウンドの増加がきっかけになっているかもしれませんが、宿泊できる歴史的建造物が注目されていることを知り、興味が湧いたので、今回はこのテーマについて調べてみました。

 

京都:仁和寺(にんなじ)境内「松林庵」

松林庵は世界遺産である仁和寺の境内にある宿泊施設です。


一休.com予約サイトより
https://qr.paps.jp/W5Yi2https://www.ikyu.com/00003153/

仁和寺は、888年宇多天皇によって開創され、その後1000年の間皇室と深いつながりを持っていたお寺です。
同天皇の御入室以降、皇子、皇孫が仁和寺の門跡(住職)を務めていました。

この松林庵では、同じ境内にある非公開のエリアを拝観したり、能や雅楽を鑑賞をすることもできるそうです。

 

長野:渋温泉・金具屋(かなぐや)

金具屋の建物は昭和11年(1936年)に完成し、それ以降今に至るまで、ほぼそのままの姿で温泉旅館として営業が続いています。建物が残るだけでなく、当時のまま営業していることが大変貴重であり、国の登録有形文化財に認定されています。


金具屋公式サイトより
http://www.kanaguya.com/deep.html

温泉文化を体験できる宿で、木造四階建ての斉月楼(さいげつろう)という建物や大広間は当時の造形の規範として国の登録有形文化財に指定されています。

 

広島:福山城・月見櫓(つきみやぐら)

ここからは、冒頭に挙げたテレビ番組では紹介されていなかった文化財です。
広島県福山市にある福山城の月見櫓(つきみやぐら)は、2024年6月開業予定の泊まれる文化財です。


福山城博物館公式サイトより
https://fukuyamajo.jp/miru/tukimiyagura/

特徴的な宿泊の特典として、国の重要文化財に指定されている筋鉄(すじがね)御門というお城の門(以下画像参照)で家臣に扮した職員が出迎える入城体験があります。

また、2022年に改修工事が完了した天守(以下画像参照)の最上階で行われる和楽器演奏の鑑賞など、今後様々なイベントプログラムが計画されているようです。

 

三重:NIPPONIA HOTEL 伊賀上野城下町の古民家

三重県伊賀市にあるNIPPONIA HOTEL 伊賀上野城下町(以下画像参照)は、登録有形文化財を含む古民家3棟を改修した分散型のホテルです。

以下の宿泊棟KANMURIは、江戸時代から続く歴史的建築物で、生薬問屋、料理旅館と役割を変えながら、長きに渡り文化人や地域住民から親しまれてきた場所だそうです。

また、「伊賀街道」の始点に位置するこちらのKOURAI棟は、伝統的な町屋です。

以下の建物は明治時代に材木店として営まれていたMITAKE棟だそうです。


NIPPONIA HOTEL 伊賀上野城下町公式サイトより
https://www.vmg-igaueno.com/stay/

2024年3月には古民家1棟が加わり、さらに同年6月には武家屋敷の一部を貸し切ることができる客室棟が新たに加わるそうです。

 

文化財の保存と資金問題

文化財である歴史的建造物を保全し後世に残すためには、当然ながら資金が必要です。
ここまでに挙げた文化財は、宿泊施設にしたたため宿泊費を維持・修繕の資金として宛がうことができます。

一方で、宿泊の場として提供できない文化財はどうでしょうか。
資金調達の方法として挙げられるのは、地域の住民から集めたお金や税金、見学料、イベントの参加費などです。文化財が観光スポットとして成立しているのであれば、行政による支援体制も整っていることがほとんどですので何かしらかの形で資金繰りができそうです。

しかし、例えば神社や仏閣の場合は、後継者や支援者の不足により維持管理が難しくなると予測する専門家もいます。また税収も年々減り続けているため、税金だけで維持してきた文化財を残していくことも難しくなりそうです。荒廃あるいは喪失する歴史的建造物が将来増えていくかもしれません。

 

おわりに

「泊まれる文化財」のアイディアは、日本に数多くある貴重な文化財を残していくため、有効な手法の一つです。利用者の宿泊費は修繕資金に当てることができますし、独自に育まれてきた文化や地域の独自性(アイデンティティ)を残しさらに育んでいくこともできます。
また利用者の立場からしても貴重な経験ができることは間違いないでしょう。私も機会があれば利用してみたいと思います。